セミナーの2日目は専門職のためのリスクマネジメント研修会が行われました。町内外から施設や病院などの職員約50名に参加頂き、講演とグループワークを行いました。
初めに、講演「転倒の要因分析に必要な情報の収集」 特定非営利法人メイアイヘルプユー 鳥海房枝様に講師をして頂きました。
「高齢者施設における転倒事故は減らせる」という本を資料にして、事故から人材育成の重要な機会に位置づけて取り組む必要があるということでした。
転倒事故は、事故報告書の作成過程において丁寧に要因分析することで気付きがあり対策や改善につながっていく。決して「見守り強化」など精神論で終わることのないよう、要因分析が重要であると強調しました。転倒し骨折に至る原因として「原因は骨粗鬆症だから」だけではなく、
- めまい、ふらつき
- 起立性低血圧、食後性低血圧、不整脈
- 疾病、傷害
- 薬剤
- 体型、足の形、歩容
- 環境、福祉用具
- 具体的なケア
上記の視点を持ち、原因を探ることが大切です。
その後、当施設で起きた実際の事故事例をもとに4~5人に分かれてグループワークを行いました。
ファシリテーター:新津ふみ子さん(メイアイヘルプユー代表理事)
コメンテーター:宮島渡さん(高齢者総合福祉施設アザレアンさなだ常務理事・総合施設長)、葭田美知子さん(メイアイヘルプユー理事)、川崎千鶴子さん(メイアイヘルプユー理事)
グループワークでは、実際に当施設で起きた転倒事故を個人が特定されないよう配慮した上で「基本情報、事故報告書、要因分析シート、アセスメント、ケアプラン」を添付し阿部副施設長が事例提供、その事例をもとに事故要因分析と対策を検討しました。
事例1
要介護3の女性 独歩で重度の認知症の方が、トイレ内にて転倒し骨折した事例。
〈内容〉
職員がトイレへ誘導し便座に座ってもらい、職員がトイレから出た5~10秒ほどで「ドン」と音がし、便座に向かいあうようにして床に体育座りをしている状態で発見。右大腿部骨幹骨折と診断を受ける。
〈要因〉
・床の何かを気に掛けた為か?(前屈みに倒れた可能性が高い)
※但し今までトイレ内で幻覚のようなものを見る事はなかった。
・立ち上がろうとしたか?(立ち上がる目的は不明)
※現在に至るまで排泄が済むまでは立ち上がろうとする動作は見られなかった。
(立ち上がりの動作には転倒に繋がるリスクは無かった)
○本人の身体能力がこの日通常時より落ちており、それに気が付かなかった可能性。
○対応を更に細かく設定すべきであったか。
・トイレから職員が出る時は背中を向けない…など。
○トイレの座面が高めで、やや足が床から浮く状況であった為に前屈みの姿勢にリスクが生じた可能性。
〈グループワーク・コメンテーターから〉
・当日のめまいやふらつきについて、便座に座ったときの座位の安定はどうだったか、過去のヒヤリハット歴、トイレ誘導時間そのものの適切性についてなど、検討する余地があった。
・事故時、どの便座位置に座ったのか・転倒時の下衣はどのような位置にあったか・手すりはどのように使用していたかなど、いつもの排泄の動作と今回の転倒時の状況を比較することで要因が見えてくることがある。いつもの動作分析を細かく行っていくことが大切である。
・直前までうたた寝をしており、トイレの声かけで起きたという経過があった。以前も寝ているときに布団にくるまった状態でベッドからずり落ちしたことがあるので、いつもと異なる状況下であったことも要因ではないか。直前の行動をも考えた対応が必要であった。
・最近、認知症の進行が見られていた。今までと変化があって当然なので今まではなかったがトイレ内で幻覚が見えた可能性もある。変化に合わせてアセスメントすることは重要である。
事例2
要介護4の女性 歩行器使用で職員が付き添いを行っていたが、職員が離れた際に歩行器が近くになく自力で歩いて転倒した事例。
〈内容〉
居間のソファで過ごされており、職員が居室へ戻るか確認すると「ここにいる」と返答あり、職員が居間から離れ戻ると「助けて」と右半身を下にして転倒している状態を発見。右眉上に切り傷と出血を確認する。
〈要因〉
・ソファーから立ち上がりテーブルづたいに歩いたが、途中で掴まるものが途切れ洗濯物干しに掴まってしまいバランスを崩して転倒したと思われる。
・ユニットの居間で過ごされていた。歩行の際には歩行器を使用しているが、歩行器が本人の座っているソファーから離れた場所にあり、自由に使える状況ではなかった。
・職員が拠点を離れる際に居室に戻るかどうかの意向を確認するが「ここに座っている。」との返答はあり職員は安心して離れてしまった。
〈グループワーク・コメンテーターから〉
・居室に戻るか確認したことで動作を誘発した可能性。
・ご本人は「ここに座っている」と言ったことで、今まで自ら移動することはなかったので職員も転倒することは考えていなかった。なぜこの方は「転倒しない」と、職員は思い込んだのか。見落としをなくすためにアセスメントをする必要があり、思い込みをしないためにも「動かないのか、動けないのか」をアセスメントし様々な可能性を考える必要がある。
・この対象者は服薬が多い。薬の影響はどうだったのか。薬には様々な副作用があるので、一人ひとりの薬内容を確認しその内容からリスクを考える必要がある。
あっという間の約3時間でした。早速、お話し頂いた内容をこれからのケアに活かしていきたいと思います。
講師、ファシリテーター、コメンテーターの皆さま、ありがとうございました。